長期停滞論(secular stagnation)

投稿者: | 2016年5月6日

この仮説は、米国のサマーズ元財務長官によって、2013年11月のIMFで提唱されたものです。
 
先進国の低成長と低金利を説明する新しい仮説で、IMFで2013年に発表されて以来、我々一般人でも耳にするようになりました。
 
当ブログでも理論(仮説)の概要と対応について調べ、今後の投資判断の材料にしていきたいと思います。

 

1.現在の先進国経済の状況

 
サマーズ氏の仮説によると、現在の先進国経済は「貯蓄と投資のバランスが崩れ、完全雇用に見合う均衡金利が低下している」とのことです。
 
より詳しく書くと
 
経済学では供給が需要を生み出すというセイの法則があるが、米国や欧州、日本など、先進国のように低成長が続く社会では、これと逆のことが起こっており、需要が供給を左右している。このため、雇用を確保するための需要喚起には、金利を下げなければならなくなっている。
 
とのことです。
 
需要喚起を目的とした、金融緩和によるインフレと金利、雇用の関係は、おおむね下記の経路をたどります。
 
  1. 金融緩和してお金を市場に供給する(もしくは金利を下げる)と、お金を使いやすくなるので需要が生まれる
  2. 需要が強すぎると供給が間に合わなくなる。その結果、ディマンドプルのインフレになる。(モノに対してお金の価値が下がる)
  3. インフレが強すぎると、賃金の伸びよりも大幅にお金の価値が下がるので、賃金が物価より伸びなくなる。
  4. 増加率で「賃金<物価」では、雇用を作っても豊かになれないので、金利を上げる。(金融引き締め)
  5. 金利が上がると投資から貯蓄へお金が動くので、投資が減り、インフレの伸び率も鈍る。(賃金は減らない程度にする必要あり)
  6. このサイクルで需要からくるインフレ率を、ターゲットと釣り合うように制御し、政策金利の均衡点を見つける。
*なお、利上げによって経済活動が停滞し、通貨価値が下がる場合もありますが、今回は日本や米国、ECBがとっている需要喚起のための金融緩和策のフローをモデルにしています。
 
金利はインフレや賃金の伸び率など、様々なターゲットをにらみながら制御されます。
 
近年では、FRBが賃金の伸び率⇒インフレ率の順番でフォーカスして金融政策を判断していました。
 
先進国経済は過剰な設備・貯蓄・労働力を抱えており、これらを十分活用するような投資機会が不足していると考えられています。
 
そのため、経済成長率、インフレ率ともに上がりにくくなっており、金利を付与することが難しくなっています。
 

2.長期停滞論(secular stagnation)

 
サマーズ氏の長期停滞論によると、先進国では上記のような成長・安定化サイクルが崩れており、高成長と金融安定性の両立ができない状況になっています。
 
まず高成長から低成長、金利の低下への流れは下記のようになっていると考えられています。
 
2000年頃から新興国の経済成長で外貨準備が増え、外貨準備運用のために安全資産である国債の需要が増えました。
 
外貨準備は利潤を求めるものではないので、最も安全な国債で運用されます。
 
よって、新興国に投資することで各国の国債が買われ金利が下がります。
 
新興国の経済が成熟し成長率が鈍ると、投資から貯蓄へ資金がシフトするため、インフレも停滞し、金利はさらに下がっていきます。
 
一方、新規投資先がなければ雇用が生まれなくなるので、投資喚起のために、やはり政策金利を下げる必要が出てきます。
 
こうして、投資が喚起されインフレ率が維持されるための金利(均衡金利)が、先進国では-2~3%にまで下がっているというのです。
 
この時点で、過去の経済学では処理できないマイナスの金利の概念が入ってきます。
 
これに対して、景気刺激のため政策金利(名目金利)を下げるのですが、これはゼロ以下にできないことになっています。
 
景気刺激には、実質金利<均衡金利 (実質=名目金利(政策金利)-インフレ率)のバランスが必要ですが、名目金利はゼロ以下にできないので、インフレ率が2%を超えてこないと緩和的な金融政策ができない事になります。
 
そのため、日銀や米国、ECBが行ったように、量的緩和を行うことになります。
 
 
しかし、金利が下がり、量的緩和を行うと投資家のリスクテイクが強くなりバブルを生みやすくなります。
 
特に、需要が弱い中で投資資金が入ると実態経済とのかい離は加速度的に起こり、経済を再起不能なほどクラッシュさせる危険が高まります。
 
これは金融安定性の喪失を意味しており、成長率を上げるには需要が上がるまで際限なく緩和する必要があるということになります。
 
これを解決するために、量的緩和、マイナス金利、ETFの買い上げなど様々な対策を打っていますが、金融政策では解決できないという認識が出来上がりつつあります。
 
*なお、マイナス金利政策が導入されているが、今日現在では部分的、かつ特定された方向でのみマイナス金利を適用している段階なので、名目金利をゼロ以下にできないというのとは、やや意味合いが異なる。
 

3.長期停滞の傾向と対策

 
先進国でインフレ率を2%程度に維持し、経済成長できるようになるにはどうしたらよいか?という問題に対して、サマーズ氏は下記の傾向に基づいた対策を挙げています。
 
  1. 金融政策の自由度はなくなり、量的緩和に戻りやすくなる
  2. バブル対策のための金融規制強化
  3. 均衡金利に依存しない需要創出
 
つまり、金融政策による金利制御は有効性を失うので、量的緩和を恐れず、財政支出拡大や輸出促進策を行うということです。
 
特に、3の均衡金利に依存しない需要創出というのは、国境を超えた民間投資の推奨を意味しています。
 
各国政府は、このための規制緩和や経済構造の改革を推し進める必要があります。
 
なお、財政が膨らむと債務危機が起こる可能性がありますが、名目金利はゼロに張り付いているので中期的には政府債務の増大にはならないとしています。
 

4.新しい金融システムでの投資と働き方

 
以上の長期停滞論からいえることは、世界中の経済が成長することによって、従来の金融システムを超えた発想で経済を見直す必要があるということです。
 
負債に対する考え方を改め、需要を喚起するための投資を行うことは、これからの経済活動で必須と言えそうです。
 
そこで、均衡金利を気にせず、世界中にボーダレスで投資を行う世の中を実現するために必要な要件を考えてみたいと思います。
 
 
まず、国境を超えた民間投資の推奨という点で、貿易のボーダーレス化はもっとも重要となるでしょう。
 
物理的なインフラから金融決済まで改革を進め、自動販売機でジュースを買うように、手軽に海外と取引できるようになることが理想と言えます。
 
そのために注目されるテーマは、金融面では仮想通貨でしょうか?
 
金融政策に左右されず、各国通貨との換金が手数料なしに近い状態で行えることは、国際決済において最も重要なインフラの一つと言えそうです。
 
このため、各国中央銀行が早めに対策を打とうとしています。
 
この金融開発特需がフィンテック銘柄をにぎわせている理由とも言えそうです。
 
逆に、収入源として金利に続き、決済手数料も失うことになる銀行は、存続の危機と言えるかもしれません。
 
続いて物流でしょうか。
 
国境をまたいだ物流を発展させるには、なにより関税の撤廃が重要でしょう。
 
そのためにも、TPPの履行は重要と言えます。
 
0504-3PL

国土交通省のホームページより

また、REITでも3,4銘柄ありますが3PL(Third party logistics)という物流システムも注目です。

3PLとは荷主企業に代わって、最も効率的な物流戦略の企画立案や物流システムの構築の提案を行い、かつ、それを包括的に受託し、実行することをいいます。

 
アマゾンもオリジナルの物流を持つ代表的な企業になります。
 
最後に、技術革新による新産業の勃興と既存産業の生産性向上があげられると思います。
 
エネルギー問題はシェール革命で延命されましたが、解決はされていません。
 
環境負荷の低い新エネルギーを開発して利用比率を増やし、原油系エネルギー消費による環境負荷を減らすことは、豊かな生活を実現するために必須となっています。
 
中国のように、石炭火力発電で急速な経済成長を行うと、その副作用で経済活動が停滞してしまうことにもなります。
 
また、バイオ、ロボットの社会活用なども、今後長くテーマとなるでしょう。
 
こういった新技術・サービスを柔軟に、かつ素早く受け入れられるように、社会の情報受容能力の向上も重要になってきます。
 
フェイスブックやツイッターなどSNSを通して、価値観の異なる人たちとコミュニケーションを取り、新しい働き方を作っていくような産業も生まれることが期待されます。
 
個人的に注目しているのは、LinkedInを使ったプロジェクト立ち上げやクラウドファンディングです。
 
これら新しい形のリソースを使えば、フリーランスによるプロジェクト単位の協業を行う働き方が広まり、社会で眠っている需要の発掘と、それを実現する速度も上がっていくことが期待できると思います。

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長期停滞論(secular stagnation)」への2件のフィードバック

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